強引なカレの甘い束縛
「そう。私は今のまま定年まで働きたいの。人間関係や生活環境が変わるのはもう嫌だから」
前方を見つめながら、それだけを口にした。
今の言葉に嘘はひとつもなく、これ以上何も言うつもりはない。
とはいっても私の出身大学を考えれば、全国採用の総合職ではなくて地域限定採用の事務職に就いていることを不思議に思われてもおかしくはない。
これまで何人もの人に「総合職に変わるつもりはないの?」と聞かれてきた。
そのたびに、現状の事務職のままでいいと答えている。
たとえお給料が増えるにしても、総合職になって異動となるのならば、それになんの魅力も感じないからだ。
「なあ、七瀬。変わりたくないのは環境だけじゃないだろ?」
「え? どういうこと……」
「俺は、変わらないし、七瀬のそばに」
「あ、あれじゃない? あの緑の屋根の家が大原部長の家?」
陽太が話している中、景色の向こうに緑の屋根が見えた。
ナビの指示に従って車を左折させ、少しずつその緑の屋根に近づいていく。
昨日、大原部長に教えてもらった家に違いない。