オフィス・ラブ #another code


「これ、けっこうかかっちゃうよ」

「やっぱり」



なじみのエンジニアが、あーあとため息を漏らしながら人差し指と親指で輪をつくってみせる。



「場所が悪いよね、ドアパネルって」

「もう少し他が傷つくまで、待とうかな…」



言っていて、憂鬱な響きだと思った。

整備工場を併設しているこのチューニングショップには、学生時代から世話になっている。

今住んでいるところを離れたくないのも、ここが理由のひとつだった。



「もう、どのくらい?」

「じき一年かな」



不定期に車が傷つけられるようになって、ついに、もうそれだけたつ。

なんなんだ。

その前には、家の周囲でしつこく人の気配を感じることが続いた。

どこの誰か知らないが、こんなことに時間を割くことができるなんて、いったいどれだけ暇なんだろうか。

そんなに時間が余っているなら、俺にくれ、と新庄は心中で毒づいた。



「誰かの恨みでも買ったんじゃないの」



新庄より少し年上のエンジニアが、冷やかすように言う。

女関係とか、と続けられて、自分はそんなイメージなんだろうかと首をひねった。



「心当たりは、ないけど」

「あったら最悪だよ」



ボンネットに浅く腰をかけていた新庄は、確かにそうだと苦笑して、吸っていた煙草を吸殻でいっぱいのオイル缶に捨てた。

< 13 / 148 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop