オフィス・ラブ #another code
明らかに自分を狙っているらしいことはわかる。

けれど本当に、心当たりがまったくない。


痛々しい傷を新たに見つけるたび、悲しみとともに怒りが湧きあがる。


誰なんだ。

何をしたいんだ。

言いたいことがあるなら──



(俺に、言え)



こんなやりかたしかできないんなら、どうせたいしたメッセージでもないんだろうが、物言わぬ車にそれをぶつけるその卑怯さに反吐が出る。

やった奴を見つけたら、自分は何をするかわからないと思った。



──残念でしたね、私が犯人じゃなくて



笑いをかみ殺したような声が、ふとよみがえる。

本当に残念だと、あの時は思った。

この車を見るのも嫌になるくらいの思いをさせてやろうと思ったのに。

そこでめぐりあったのは、考えもしなかった意外な顔だった。


彼女の置かれている状況を思い、唇を噛む。

気の毒に、女性でありながら、姿の見えない相手につきまとわれるあの不快感に、立ち向かわなければならないのだ。

自分は不気味さを感じたことはあれ、恐怖を感じたことはない。

彼女がひとりで背負っている不安がどれほどか、想像もつかない。


どうにかしてやれたら、いいんだけれど。

口惜しいことに、自分に何ができるとも思えない。


騒々しいガレージを出て小ぢんまりとした建屋に入り、きしむサッシを後ろ手に閉めた。

携帯で、彼女の名前を呼び出す。

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