オフィス・ラブ #another code

万が一にもエレベーターが故障して、閉じこめられたりしませんようにと祈った。

会社を出ようとしたところ、人事部の同期と乗りあわせてしまったのだ。

信じられないことに、またふたりきりだ。



「どこか行くの?」

「本社」

「この間、あの子に電話しちゃった。新庄くん来たよって」



やけにエレベーターの動きがのろく感じられ、途中階で降りようかなと真剣に検討した。



「会いたいって言ってたよ」

「だろうな」



ようやくロビー階に到着し、ドアが開くやいなや飛び出すと、くすくすと笑う声が背後に聞こえた。


そう、彼女は。

例のコンペの、クリエイティブの女子と、仲がよかったのだ。

そして新庄の「同期食い」という噂を広めた張本人でもあった。


クリエイティブの女子は、退職する際、新庄への意趣返しにその噂の種をまき。

被害者を名乗ってさらにそれを流布させたのが、人事部の彼女だった。


といういきさつを新庄本人が知ったのは、だいぶ後になってからのことで。

同期食いと陰で言われていることは知っていたが、なぜそんなことになったのか、ずっと不思議だったのが。

結婚して大阪に行くことになった彼女に、ふいに社内で行き会った時、いつか噂を実行しようよ的なことを意味深な笑みと共に言われ、すべての合点がいったのだった。


女は、怖い。

役員宅へタクシーを向かわせながら、新庄はしみじみと思った。

自分が何をしたって言うんだ。



(何もしなかっただけじゃないか)



ふてくされるような気分でシートに背を預け、新幹線の中で役員と話したいことを、頭の中で箇条書きにした。

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