オフィス・ラブ #another code
彼女が黙ったまま、自分を見る。

いたたまれず、くわえた煙草に意識を逃がす。

彼女の服にも、顔にも手足にも、痛々しい痕跡が残っていて、見ていられない。



傷ついてほしくないのだ。



唐突に、言葉が降ってきた。


そうだ。

自分は、彼女に傷ついてほしくない。


安全なところで、健やかに満ち足りて、笑っていてほしい。

何が彼女をそんなふうにできるのか、知りはしないけれど。

少なくとも自分ではないと思った。


自分では、ダメだ。

自分は、うまく、ないから。

なぜだかわからないけれど、誰かを大事にしようとして、成功したためしがないから。

たぶんそういうのは、自分には向いていなくて。


だから。



「俺じゃないほうが、いいと思う」



俺は、大塚を大事にできない。


そう、思ったとおりを、言ったのだけれど。

自分は伝えかたすら間違えたらしく、彼女は怒りを燃え立たせただけだった。



「私のためってことですか」



聞いたこともないような、険しい声で。

激しい感情に揺れる鋭い瞳が、こちらを見すえる。



「教えてあげます。そういうのはね」



──あなたが決めることじゃ、ありません。


怒りに傷ついて、震える声。

どうやらまた、自分は失敗したのだ。


違う、と言おうとしたけれど、何がどう違うのかわからず逡巡した、一瞬の間に。

彼女は荒々しくドアを閉めて、走り出ていった。

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