オフィス・ラブ #another code


中途入社の正社員は、非常に珍しい。

たいがいが、まずは契約社員として入り、数年の後に試験を受けて正社員となるからだ。

いったい、どんな奴だろう。



「新庄、例の記念切手の企画、4部が使いたいってさ」

「そうか、じゃあクリエイティブと詳細詰めておく」

「面倒だから、今度のクライアントとの打ち合わせに、グラフィッカーもひとりつれていきたいんだよね、いい人いない?」



言われて新庄はデニムの脚を組み、うーんと考えた。

クライアントと話のできるクリエイターは限られている。

アーティスト風味が強すぎて、コミュニケーション力に難のあるスタッフが多いからだ。

ひとり、若手で、職業クリエイターとして割りきっている男性社員がいるので、それを紹介することにした。



「サンキュー、助かる」

「いや」



持っていたファイルで、通りすぎざま軽く新庄の肩を叩き、フロアを出ていく。

偶然にも同い年だった、この堤という中途社員は。

柔らかくて優しげで、男のくせに綺麗と言いたくなるような容姿に似合わず、毒舌でシニカルだった。

前職は、誰もが知っているシェアウェアやネットワークサービスを提供している企業のプランナーで。

同じ企画という名はつくものの、まったく違う業務であるだろうにもかかわらず、さっさとなじんで、マイペースにこなしていた。



「仮サイト? 俺、組めるよ」

「頼めるか」



いいよ、とサンドイッチにかぶりつきながら、堤が軽くうなずく。

助かった。

スクリプターがどうしても手いっぱいで、提案までに望む形に持っていけそうになかったのだ。

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