オフィス・ラブ #another code
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────────…


新庄。


にぎやかな食堂で、ふと自分の周囲だけ、音が消えたような錯覚に陥った。

少し驚いたような声で名を呼ばれる。

それは遠い昔になじんだ響きで、封じこめた苦い記憶を呼び戻した。



「久しぶり」



何が、久しぶり、だ。

パーティションで区切られているとはいえ、同じフロア内にいる者同士。

仕事上はなんのつきあいもないものの、洗面所や喫煙所で顔を合わせることくらいはある。


けれど確かに、この場には、その言葉がふさわしい気がした。

数年ぶりにふたりの道が交わった、この瞬間には。



「そうだな」





──仲、悪いんですか。

大塚の問いかけに、別に、とつい返答も雑になる。


失敗した。

よりによって、彼女とふたりの時に出会うとは。

勘のいいあの男は、自分にとって大塚がどんな存在なのか、一瞬で見抜いただろう。


手段を選ばない、奴が、どうかもう自分に興味を失っていますようにと。

祈るような気持ちで、食事を続けた。



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