オフィス・ラブ #another code
いや、実のところ、少し自信がなかった。

自分の記憶する彼女より、妙に幼く見えたからだ。


化粧をしていないせいだ、と気がついた。

今まで寝ていたような服装にダウンを羽織っただけ、という恰好で、新庄を見て呆然と立ちすくんでいる。

一瞬、電話で起こしたのなら申し訳ないという考えが浮かんだが、そんなタイミングじゃなかったと思い直した。

けどなぜ降りてきたんだろうと思いながら、不要となった携帯を切る。


大塚が、ふと目をそらして、何かを見た。

その視線をたどると、一緒に出てきていたらしい青年と目が合う。

青年は、きょとんと瞬きをして、大塚を振り返ると。



「恵利?」



どうしたの、とでもいうように、親しげに呼んだ。

大塚は目を見開いて、硬直したままだ。



何か言えよ、と思った。


言わないんなら。

自分は、見たままを受けとるしか、ない。



けど、やはり大塚は何も言わず、やがてぽつりと、新庄さん、と呼んだだけだった。


新庄は小さく息をついた。

これ以上この場にいても、仕方ない。

様子を見に寄っただけだし、出直そう。


そう伝えた自分の声は、思うより皮肉に響き、ドアを閉める手は意識せずとも乱暴になった。

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