落日の楽園(エデン)
 うん、と数鷹を見送り、部屋に戻りかけた舞は、カウンターの横にある電話に目を留めた。

 伸ばすことのできない手を握り締め、それを見つめていたとき、いきなりベルが鳴り、舞は、びくりと身を竦めた。

「は、はい。……坂口ですが」

 電話の主は母親の友人だった。

 相手の名をメモしながら、舞は思う。

 どうせ、電話などできはしない。

 誰が出ても、自分は受話器を置いたことだろうから。

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