今、鐘が鳴る
泉さんは私を抱きながら黙々と歩いた。

「どうせ私は愛嬌ございませんよ!何よー!泉さんなんか!何でこんなとこにいるのよー!もうっ!何でもっと早く助けてくれないのっ!?……怖かった……よぉ……」

文句を言ってるつもりが、途中から涙がボロボロこぼれ落ちた。

「はいはいはい。めんどくさい女やなぁ。」
そう言いながらも、泉さんはちょっと笑っていた。

「だいたい、なんで、泉さん達が、あんなろくな料理出さない居酒屋にいるの!もっとまともなもの食べないと、身体が資本なのに!」
「……心配してくれてるんけ?あそこのバイトのねーちゃんの1人がキャバクラ掛け持ちしとって、呼ばれたんや。いつも行ってるわけちゃう。……まあ、料理はひどかったな。もう行かへんわ。」

キャバクラ!
わけわかんない!
不潔不潔不潔!

「泉さん、お願いだから……よそ見しないで奥様と仲良くして……。テレビ見たわ。奥様、すごく尽くしてくださってるのに……。」
私は涙ながらにそう言いながら、泉さんにぎゅーっとしがみついた。

泉さんは苦笑していた。
「ワガママな女やなあ、ほんま。百合子が俺の女で、他の女を切れって言うんやったら努力するけど。なんで、俺のモンにならへん女の言うこと聞かなあかんねん。」

……そっかあ。
泉さんの言葉に、私は、自分でも驚くほどにしょんぼりした。
既に、泉さんの中で自分が過去になっていることをハッキリ宣言されたのよね、今の。

「奥様は、浮気しないで、って言わないの?」
そう聞くと、泉さんは口をへの字にした。

「イチイチうるさいわ。どうでもええやろが。俺らのことはほっとけや。」

……怒っちゃった。
ごめんなさい。
そんな資格ないってわかってるけど……やっぱり気になるの。
幸せになってほしいから……。

私は、くすんと、泣かないように鼻をすすった。
「泉さん。好きよ。ご活躍とお幸せを、遠くからお祈りしてます。」

このまま抱っこされてたいよー。
ぐりぐりと顔を泉さんに擦り付けてそう言った。

「……こぉの、酔っ払いが。犯すぞ。」
泉さんにそう言われて、やっと自分が何を言ってるのか自覚した。

やだ、本当に、私、何言ってるのかしら。
好き、とか、言っちゃダメだってば。
……お酒飲みすぎて、つい気持ちよくって、本音が出てしまった。

そう……本音なのよね。

泉さんには抗(あらが)えない。
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