今、鐘が鳴る
「あいつとは?まだ?由未の結婚式の時、百合子に告(こく)ってた奴。」

義人さんの言葉に、私の心が凍り付いた。

まだ、って……どういう意味?
碧生(あおい)くんとつきあえ、って、義人さんまで思ってるの?

私は義人さんから離れようと身体を起こした。

義人さんはため息をついて、車を停めた。
「ごめん、イケズ言うた。」
そう言って義人さんは、クタッとハンドルに額を付けるように突っ伏した。

……イケズ。

ポロポロと涙がこぼれた。

「泣かんといてーな。あー、もう!ほら!」
義人さんは私を自分の胸にかき抱いた。

涙は後から後から溢れて、なかなか止まらなかった。
また戻ってきてしまった……義人さんの腕の中に。




雪がしんしんと降り続く。
車のガラスを雪が埋めていく。
私達の罪を……社会から隠してくれる。




義人さんは、恵まれた人だけど、実はとても屈折している。
誰からも好かれるし、義人さん自身も誰とでも上手く付き合っていくことができる人だ。

でも、本当に人を好きになる条件として、何らかの禁忌(タブー)が必要なのかもしれない。
……義人さんは、私が異母妹だと知ってから、変わった。
心から私を想ってくれるようになった。

最初のうちは、身内だから、妹だから、大事にしてくれるようになったのかと誤解した。
でも、私を見る瞳がそれまで以上に熱く激しくなったことに気づいた。

はじめて、本当に愛された。
もちろん2人とも倫理観に悩み苦しんできたけれど、抱き合えば全て忘れられた。

ダメだとわかっていても、私達は……完全に関係を断ち切ることはできないのかもしれない……

これからも。






「俺の存在が、百合子を他の男から遠ざけるのは、困る。」

そんなことキスの合間に言われても……。

「百合子には、他の男を好きになってほしい。」

知らない。
私は、義人さんの背中に回した手に力をこめた。

「百合子が他の男とちゃんと恋愛するまで、もう逢わない。」

うっ……。

涙と嗚咽が止まらない。

こんなに好きなのに。
義人さんだって、ちゃんと愛してくれてるのに。





「じゃ、俺、戻って二次会に合流するけど……宗和はやめときーな。」
やっと落ち着いた私を家の前まで送ってくれてから、義人さんはそう言った。

「若宗匠?別に、そういうんじゃないけど?」

義人さんはクッと片頬だけ上げて皮肉げに笑った。
「やっぱり気づいてへんにゃ。宗和は百合子狙いで茶会開いたんやと思うで。」

「……さやかさんじゃないの?」
驚いてそう聞くと、義人さんは私の頭を撫でた。

「あの子は俺に宛がう気やってんろ。そういや百合子、あの子の無神経に苛つかんと、親切にしてやってたな。えらかったな。」

子供のように褒められた。
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