エリートな彼と極上オフィス
「なのにあんなことになって、なってっていうか、俺がやったんだけど、もうほんと、後悔どころの騒ぎじゃなくて」
「先輩、あれはもう…」
「ここまで自分を嫌いになったの、人生初で。でも俺が自分責めたところで意味ないし、どうしたらいいか、全然わかんねえ…」
本心から途方に暮れているんだろう、先輩の声はもう、今にも泣きだすんじゃないかってほど頼りない。
メーカーらしい、長すぎるほど長い休みのおかげで、あの日からもう一ヶ月近くが経とうとしている。
その間、ひとりでずっと、ここまで心を痛めていたのかと思うと、もっと早くになんとかしてあげるべきだったと悔やまれた。
先輩は少しの間黙って、コーヒーをすする。
綺麗なネイビーブルーのコートを見下ろしながら、先輩はつまり、何を言いに来たのだろうと思った。
カップを両手で挟んで、先輩は、なのにさ、と続けた。
「千明に言われたの、"お前は俺に湯田ちゃんを返せと言う割に、湯田ちゃんに、帰ってこいとは言わないんだな"って」
「はあっ?」
先輩はますますうつむいてしまう。
千明さん、私のいないところで、いったいなんの話を。
「俺、驕ってんだって」
「何をですか」
「湯田は俺から離れたりしないって、どこかで確信してるんだって。この期に及んでそんな慢心、恥を知れって言われた」
「え…」
「何が嫌って、それたぶん、当たってんだ…」
え。
恥じ入るように呟く先輩の声を聞き洩らさないように、屈んだ背中に身体を寄せた。
「確かに俺、お前が千明のほう行くなんて全然思ってない。単にあいつがちょっかい出すのが腹立つだけで。でもそんなの最低じゃねえ?」
「最低ですねえ」
「どうすりゃいいのか、ほんと、もう…」
先輩はついに、片手で顔を覆ってしまった。
わあ…。
「先輩」
「何」
「抱きついてもいいですかね?」