エリートな彼と極上オフィス
「隙、見せんなよ」
「はいはい、痛い!」
おざなりな返事に対して、手帳で思いきりお尻を叩かれた。
ふんと私を鼻であしらって、先輩は先に行ってしまう。
いくらなんでも横暴だ。
「あのですね、北風と太陽っていう話があってですね」
「知ってるよ」
「人に言うこと聞かせようと思ったら、暴力なんて逆効果なんですからね」
「言うこと聞かせようなんて思ってない」
追いついて訴えると、予想外の返答をもらう。
えっ、とぽかんとすると、正面から指を差された。
「好きに動いたらいい。けど、気をつけろって話だ」
どん、とその指で胸の真ん中あたりを突かれて、私はふらっと後ろによろめく。
煙草吸ってから戻る、と言って先輩は、隔階にある喫煙室に行ってしまった。
胸の一点が、熱かった。
私が少し、信頼を得たのか、それとも。
先輩が、変わったのか。
「私たちは、この言葉をブランドタグラインとして掲げます。これはコピーライターが勝手に考え出したものではありません」
あらゆる部門のマネージャークラスを集めた社内説明会の会場で、先輩の声がスピーカーから響く。
「各事業所や生産ラインで働く従業員に細かなヒアリングをした中で、浮かび上がってきた言葉です。元から我々の中にあったものなのです」
メーカーだけでなく、取引先も小売店も、そしてお客様も、私たちの会社の製品に触れると、少し暮らしが明るくなるように。
食べたり飲んだりという、生きていくには避けられない行為を、安心して行えるように。
そんな願いと約束を込めたタグラインは、150名強の聴衆から、大きな拍手で迎えられた。
「掲げて終わりではありません。あらゆる場面で、このタグラインに沿って行動するとは、どういうことなのか? 次にそれをご説明します」