エリートな彼と極上オフィス
私と千明さんが中心となって制作中である、スタイルブックのプロトタイプを見せながら、先輩がプレゼンを続ける。

誰一人として中座することなく、あくびする人さえ、ひとりもいなかった。



「上出来!」

「いてっ」



質疑応答やディスカッションといった予定をすべて終え、参加者の退室を見送ると、六川さんが先輩の背中を力いっぱい叩いた。

すごい音がした。



「だがまた“俺”って言ってたぞ、2回」

「本当ですか、気をつけます」



先輩の顔が、恥ずかしそうに染まる。

大勢の前でプレゼンをする仕事をほとんどしてこなかった先輩は、まだまだこの分野では修業中だ。

私はあの自然体で楽しげなトークが大好きなんだけど、時折、素が出すぎるのをこうして毎回チェックされている。



「自分の入社志望動機の話の時、出てたね、あのエピソード自体は俺、すごく好き」

「人事部の奴がめちゃくちゃメモしてたの見たぜ」

「次はどうする?」

「さすがに山本も連続で疲れたろうから、俺行きますか」

「やだなあ、寄席が始まるのか」



みんなが笑うのは、六川さんのプレゼンが面白すぎるからだ。

業界ジョークとか、ひやっとするほど際どい役員いじりなんかを、上手に混ぜてスピーチする。

ベテランらしい安定感もあって、さすがだなあと毎度思う。


でも真にさすがだと思うのは、IMCメンバーの私を除く全員が、こうやって割り振られれば、プレゼンターを務めることができてしまう点だ。

誰が話しても、話し方こそ違えど、語るものはぴたりと同じ。

岩瀬CMO率いるIMC室が、いかに統一された意志を持ち、また個々のメンバーが秀でているかの証明だ。

すごい人たちなのだ、改めて。



「湯田、さっき質問受けたとこ、資料さ…」

「あ、アップデートしておきました、サーバに上がってます」

「すげえ、電光石火」

「なんのために横で見てると思ってるんですか」



質問者にマイク渡しに走るためだけじゃないんですよ。

微力ながらみんなの役に立つべく、湯田はいるのです。

部屋まで戻る道すがら、心持ち胸を反らす私を見つめて、先輩が妙にじわじわ笑いを浮かべた。

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