エリートな彼と極上オフィス
ああいうのが好みかと言われたら、バカ言うな俺の好みはここがもっとああでこうでと言いたくなるけれど、不思議と彼女は人を惹きつけた。

明るくて前向きで、賢くて健気。

何より、広秋と仲のいいこのろくでもない同期を、先輩と崇めてくっつき回っている様子が、とても可愛かった。


要するに女の子なんて、素直でよく笑って、最低限の常識と頭があればそれでいいのに、意外とそれを備えている子は少ない。

なんでなんだろう、と広秋はたまに首をひねるのだった。



「女って、すぐみんなって言うよな?」

「その会話で、そこが気になるお前がすごいよ」

「この本、面白いな、借りていい?」



いいよ、と応えてから、なんの本に興味を示したんだろうと向こうの手元を見ると、企業のSNS活動に関する本だった。

相変わらずアンテナが広いというか、それを求められている部署にいるので仕方ないのかもしれないが、さすがだなと感心する。


決して自分から前に出ていくタイプじゃない。

けどどうしてか、前に出るよう周りから支持されがちで、出れば戸惑いながらもきっちり自分の仕事をしてくる。

新人研修の頃から、山本航はそんな同期だった。





「ねえちょっと、どうなってるのよ」

「俺に訊くなよ」

「他に誰に訊くのよ」



それもそうだと思いながら、中川にしょっぴかれるままカフェのあるフロアに向かう。

当然のようにコーヒーを奢らされたが、まあ女の子のこういう傲慢さは嫌いじゃない。

美人ならなおのこと我慢もできる。



「山本くん、結局あの若い子とつきあってるわけ」

「そうだよ、まあ元から仲よかったし、自然な流れだろ」

「納得いかない」



端の方の席で、中川が悔しそうに唇を噛む。

こいつ、本人の前以外では“山本くん”て呼ぶんだよな、と広秋は女の複雑な心理に首をかしげた。



「山本はお前みたいな女くさいの、理解できないんだよ」

「女くさいって何よ」

「言葉のまんまだよ」


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