エリートな彼と極上オフィス
自覚はあるらしく、ふんと鼻を鳴らして黙る。

つやつやした髪や爪とか、抱いたら柔らかそうでいい匂いがして、白くてあちこちすべすべな身体とか。

そういう男が内心どきっとするような女の子的な魅力に、航は反応しない。

元から鈍いのかもと思ったけれど、あれはたぶん、もう慣れすぎて麻痺しているんだろうと広秋は見当をつけていた。

自分に向けられるそういうものに、いちいち反応していたら身が持たないと身体のほうが判断し、シャットアウトするようになったんだろう。


嫌いじゃないんだろうが、プラスポイントとして認識はしない。

こと航を相手にする限り、それは武器にはならない。


別に湯田に女らしさがないというわけでは決してないが、そういうものを抜きにしても魅力的な子なのは確かだった。

広秋としては、彼女に軍配が上がったのも納得だ。



「確かに頭よさそうな子だったけど、普通じゃない?」

「普通かどうかはあれだけど、面白い子だよ、山本のアホにもよくつきあってやってるし、あそこはまあ、あのままうまくいくだろ」

「こっちは何年かけてきてると思ってるのよ」

「お前、間に男いたじゃん、いてっ」



うっさいわね、と頭を叩かれた。

とばっちりにもほどがある。



「私だって脈ないことくらいわかってました」

「じゃあさっさとあきらめたらいいじゃないか」

「もしかしたらって思ってたの」

「罪な奴だね、山本も」

「いい加減なのよ、とにかく!」



カウンターに拳を叩きつける中川を、まあまあ、となだめる。

あれは別にいい加減なわけじゃない。

あいつなりにすべてにおいて全力で、誠実なつもりだし、少なくとも姑息な嘘なんかは絶対につかない。

ただ想像力の働く領域が狭すぎて、常に考えが足りないだけだ。



「バカじゃないのにな」

「そうなのよね」



でも、バカなんだよな。

そうふたりで深々とうなずきあって、夕方の一仕事に戻ることにした。





「あらあ、偶然」

「げ」



飲み屋の戸が開いたと思ったら、入ってきたのはよく知ったふたり組だった。

湯田が嬉しそうに、こんばんはーと寄ってくる。

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