エリートな彼と極上オフィス
ホームに到着すると、ちょうど電車が来たところだった。

足を止めず、階段を下りた勢いのままひょいと飛び乗った先輩が、振り向いて笑う。



「大丈夫だって、お前はできる」

「緊張のあまり手が冷たくなってきました」

「おいおい」



そこそこ座席の埋まった車内で、ドア横の角に私を立たせた先輩が、私の頭越しにぽいと網棚に鞄を置いた。

今日の先輩は、ストライプのシャツにグレーのネクタイ。

上着は片手に持っている。

少しの距離とはいえ屋外を歩いたせいだろう、先輩の腕が私の顔のそばを通った時、ふっと湿った体温がかすめた。

いい匂い。


先輩は吊革に手首を引っかけるようにして、携帯でニュースをチェックしはじめる。

こんなふうに伏し目がちになると、陽気に笑っている時と、まったく異なる印象になる。


クールビズと称して、夏場はノータイが許されているのに、先輩は毎日必ずネクタイをする。

営業時代の癖だな、と本人は言っていたけれど。

ほんとは、ネクタイ姿がめちゃくちゃパリッと爽やかで見惚れるほどすばらしいのを自覚してるんじゃないですか。

最近そんな、どうでもいいことで突っかかりたくなる。


私の視線に気づいたのか、先輩がこちらを見た。

目が合うと、なんだよ? って感じに眉を上げて、ちらっと微笑む。


そんな一瞬の表情が、げんなりするほど様になる。

ほんと、どうにかなりませんかね、この人。



渓流に遊びに行く話はどうなったかというと。

もちろんぽしゃった。

何度でも言うが、私がバカだったせいで。


計画は順調に進んでいた。

順調すぎるくらい順調に。



『ただ川遊びするのもなんだし、どっか行くか』

『さくらんぼ狩り希望です!』



挙手した私に、先輩が目を丸くする。

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