エリートな彼と極上オフィス

「待てよ、話は終わってない」

「私は終わりました」

「なんだそりゃ、俺なりに頭も時間も使ったんだぞ、これじゃ完全に言われ損じゃねえか!」



先輩も、口がすべっただけだってわかってる。

そもそも悪いのは私だってこともわかってる。


だけど先輩のその言葉は、杭となって私の胸に打ち込まれた。

衝撃で身体が揺れるほど、強烈に。


私を見上げる先輩が、はっと口を押さえた。

私はもう、その顔をまともに見られなかった。



「悪い、湯田、俺…」

「あの、ちょっと、失礼します」

「湯田!」



取られた手を振り切って部屋を飛び出した。

フロアでは絶対に泣きたくない。

滲んでくる景色の中、廊下を走って、突き当たりのドアを壁に叩きつけるように開けた。

熱い呼吸が身体の奥から襲ってくる。

鏡の中の自分は、見たことのない表情をしていた。


言われ損。

損か。

わかってはいたけれど、改めて本人の口から聞くと、こんなにショックなものなのか。

私の想いは、先輩に損させてたんだ。



「湯田!」



わー!

思わず悲鳴をあげた。

背中を預けていたドアに突き飛ばされ、つんのめったところに先輩が飛び込んできたからだ。



「女子トイレですよ!」

「わかってるよ!」



淡いピンクのタイルで構成された空間の先輩は、ものすごい違和感だ。

先輩も改めてそれに気づいたらしく、さすがに心細そうな顔で周囲を見回す。

でもすぐに、私を正面から見据えた。

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