エリートな彼と極上オフィス

「ごめん、言いすぎた、心にもないこと言った」

「ちょっとはあるから、言葉が出てきたんですよ」

「そう言わないでくれ」

「別に責めてるんじゃなく。ああ思うのは当然です、それを認めなかったら、先輩はくたびれるばかりです」

「ほんとにあんなこと思ってない、なあ湯田、泣くな…」



かろうじて口先だけはいつもどおりを装っていたものの、先輩の言うとおり、私はみっともなくも、ぼろぼろ涙をこぼしていた。

先輩が、言葉をかけかねたみたいに、困った顔をする。

こんな顔させて、私は本当にダメな後輩だ。



「先輩は悪くないです、全部私で」

「お前だって悪くないよ、ただ俺、どうしたらいいのかほんとにわかんないんだ、なんでお前が変なのかもわかんねえ」

「私もわかりません」

「でも俺よりは、わかるだろ?」



ヒントくらい出ない? と言われ、つい真剣に考える。

走ってきたらしい先輩は、まだ少し息を荒げている。

その顔を見ていたら、胸の奥の奥に激痛が走った。

そりゃもう、一瞬呼吸が止まるほど。


中川さんと、どんな休日を過ごしましたか。

私と出かける予定は、もう期待しちゃダメですか。

訊きたいことはあるけれど、口に出したら、それで全部のように思えてしまいそうで、嫌だった。


何か言わなきゃと口を開くと、代わりに涙が出る。

先輩が、びくっとしたのがわかった。



「…楽じゃ、ないですよ」

「ごめん…」

「全然楽じゃないです」

「ごめんって」



見られたくなくて、腕で顔を覆った。

少しでも遠ざかろうと、ずるずるとしゃがみ込む私を追うように、先輩も膝を折る。

その手がためらいがちに、私の髪をなでた。



「湯田、泣くな、お前に泣かれると俺、弱い」

「すみません」

「謝るなよ…」

「何なさってるんです!?」



突然の怒声に、私たちは弾かれるように立ち上がった。

戸口には清掃員の制服を着たおばさんが、ものすごい形相で仁王立ちしていた。

あ、と先輩が硬直する。

< 56 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop