エリートな彼と極上オフィス
「IMCも2年目ですね、社内に対して我々のイメージの定量調査でもするのですか」
「すると思うぜ、千明(ちぎら)んとこが準備してた」
「必要ですかね?」
「お前は知らないだろうが、うちの会社は95%がまだ一昔前に生きてる。新しいことを広めるには、それなりに段階を踏まないと」
「みんなが先輩ならいいのに」
空調の気流から守るように、両手で煙草に火をつけながら、先輩は目を細めて私の軽口を受け流した。
本心ですよ。
みんなが先輩や、他のIMCメンバーのように、柔軟で先進的な考えを持っていたら、この会社はたちどころによくなる。
こんなぺーぺーの私ですらそう感じるのに。
なぜ大企業というのはこうも、無駄にお尻が重いのか。
「湯田、今日生産の方に行ったら直帰だろ、あっちにうまい店知ってんだ、飲んで帰ろうぜ」
「今日、同期飲みだぞ、山本」
あれっ、そうだっけ? とコウ先輩が目を丸くした。
声をかけたのは千明さんだ。
機密の打ち合わせなどをしていない時は、IMC室は非常にオープンで、他部署の人も自由に出入りし、ここにしかない資料や書籍を借りていく。
千明さんはIMCに隣接する広報部の人で、IMCの取り組みを社内に認知させる活動の担当でもあるので、特に出入りが多い。
「生産て鶴見だろ? なら戻ってこられるじゃん」
「んー、いや、いいや、俺はまた今度」
「同期が湯田ちゃんに妬くぞ」
「妬くならIMC相手にしてくれよ」
後でな、と私を指差して、先輩は打ち合わせのために部屋を出ていった。
見送っていた千明さんと私は、同時に顔を戻し、必然的に目が合った。
「忙しい奴だね、まったく」
「ご同期は、仲いいんですか」
「わりとね、そっちは?」
「まあまあだと思ってたんですが、仕切り屋のひとりが同期内で彼女をつくったら、なんだか微妙な空気になりました」
「はは」