エリートな彼と極上オフィス

「バカというか、きっと何も考えてないのね」

「あー、ですです」



由美さんの言葉に、しみじみしてしまった。

ほんと何も考えてない、コウ先輩は。



「時折頭を使ってくれているのは伝わってくるんですけど、いまひとつ習慣化しないというか」

「それを考えなしと言うのよ」

「そういうちょっとアホなところが魅力でもあり」

「千栄乃ちゃんて、一歩間違うとダメ男に転ぶタイプだわあ」



えー、ほんとですかあ。

じゃあ初めて好きになったのが、考えなしなところ以外はまともなコウ先輩で、よかったと思おう。



「プライベートではダメ男なのかもよ」

「裏表つけられるほど器用じゃない気がするです」

「わかった、まとめると、仕事のできるバカね」



本人にはとても聞かせられない結論が出た。

由美さんが茶豆を咀嚼するたび、襟ぐりの開いた胸元がとろりと揺れてすばらしい。


そういえば、とふと思った。

先輩は、どんな女の人が好きなんだろう。





電話を取ると、コウ先輩だった。

彼は今、西日本の事業所を巡る出張中で、今週ずっと顔を見ていない。



「お疲れ様です、そちらはどうですか」

『うーん、一筋縄じゃいかないな、考え方とか働き方が、そもそも本社とかなり違うのがわかった』



なるほどですね、と内線機能のある携帯を肩と頬で挟もうとして失敗する。

受話器が恋しい時もあるなあ、と思いながら、チームの日程調整をしようとしていた手を止めた。

フリーアドレスと固定電話は、相容れないから仕方ない。



『でもさ、この間のグルインの結果をぶつけてみると、やっぱりみんな、いい驚きがあるみたいなんだよ』

「固定観念で仕事しちゃってるなって、どこかで感じてるんですよね」

『そ、いい具合に巻き込んでいけたらなと思う。ところで室長いる? さっきかけたら出なくて』

「部長会です、臨時の召集がかかりました」

『マジ? なんの件だろ』

「みんなの予想では一時給付金の話じゃないかって。ほら、上期の業績よかったから」


< 72 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop