エリートな彼と極上オフィス
あー、という先輩の声がぶれる。

背後の音から察するに、駅か空港の構内を歩いてる感じだ。

地方の事業所は女性職員も多いから、行く先々でさぞ歓迎されただろう。

早く会いたいなあ。



『頃合い見てまたかけるけど、これから飛行機なんだ』

「お電話があったとお伝えしますよ、IMCのみんなも、先輩の報告を楽しみに待ってますからね」

『サンキュ、俺も伝えたいこと、いっぱいあるわ。お前のほうは? なんか問題起こってない?』



大丈夫です、と胸を張ると、そっか、とほがらかな笑い声がする。



「今日は直帰ですよね」

『そのつもり』

「家でゆっくりなさってください」



くすぐったそうに、うん、と言うのが聞こえた。

表情が想像つく。

きっと、ちょっと照れて、すごく嬉しそうで。



『じゃ、週明けにな』

「はい」



ああ、会いたい。

今週は先輩不足で、なんだかいまひとつな私なのだ。





「えー、そうなの、じゃ言っとくよ、うん」



食堂のフロアにあるカフェコーナーに来たら、もはや馴染みとなった声がした。

このコーナーでは、各階にある自動のドリンクコーナーと違い、バリスタが淹れてくれる。

もちろん少しお高いが、贅沢したい気分の時は、ここに来る。


スタンドテーブルの並んだエリアで、中川嬢が携帯片手にコーヒーを飲んでいた。

ここまで来てUターンしたら、かえって目立つ。

なるべく気配を殺したつもりが、カウンターにたどり着く前に目が合った。

なぜだか彼女は、愛想よく笑いかけてくる。



「わかった、航も気をつけてね、電話ありがと」



…あ、そういうこと。

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