エリートな彼と極上オフィス
「何か聞いてるか?」
「いや、嶋さんとCMOが朝から話してるのが、その件なんじゃないか」
「湯田さん、知ってる?」
いえ、と首を振る。
昨日も会社終わりに軽く飲んだけど、少なくとも別れた時は、いつもどおりだった。
体調が悪いなら、その旨の連絡が私にも来るはずだ。
携帯を見てもいないようで、メッセージを送っても読まれる気配すらない。
胸騒ぎがした。
昼食に入る少し前に、会議室から戻ってきた嶋さんがみんなを集めた。
こういう時の常で、テーブルを動かすより早いと、みんな立ったまま嶋さんを囲む。
「昨晩、山本のお母さんが亡くなった」
誰もが、虚を突かれたように黙った。
身内の不幸なんて、言い方は悪いがよくある。
これだけの従業員数になると、毎日のように誰かしらの親族の訃報が回ってくる。
でも嶋さんの口調は、何かそれ以上の事情があることを伝えていた。
「本人のいないところであれなんだけど、山本の状況を理解してもらいたいから、言うね。彼の家には元から、父親がいないんだそうだ」
「関東の出身でしたよね?」
「山本本人はね。お母さんは離島の出だ。お父さんについてはまあ、かなり事情が複雑らしく、今回の葬儀はその離島で行われる」
「兄弟は?」
「お姉さんがいる。今回の喪主も彼女らしいよ」
確かに姉貴いそうだよな、と六川さんが呟いた。
こんな時だけれど、すごくわかると思った。
「岩瀬さんは葬儀に参列するため、もう発った。行くだけで24時間かかる場所だ。本人からは来なくていいと言われたけど」
「俺たちも、香典くらいは」
「それもやんわりと断りをもらっている。山本が復帰したらねぎらってやろう、そのくらいがいいと思う」
室内が、しんみりとした沈黙に覆われた。
コウ先輩に、不幸は似合わないのだ。
みんなそう感じているに違いない。