甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「そうなんですね。課長、可愛がられてるんですね。野菜送ってくれるなんて」
「この歳で可愛がられてるって言うのもな……まあ優しいよ、兄貴はずっと。って、歩いて帰るから、重いか」と考え直したようだ。

「……確かに。でも食べてみたいです」
きっと大事に作っているんだろうなと想像がついて、食べてみたくなった。

「まあ、また食べに来いよ」
「はい、喜んで! そのときはイカと焼き鳥と秋刀魚と……」
「はいはい、じゃあな食い意地」と新しいあだ名をつけてあしらうので「じゃあ、明日」と、後ろ手に扉を閉めた。

腕組みをしながらぶっきらぼうに見送られたけど、課長の気の許した子犬のような優しい表情は初めてで、どうしてか胸がキュッとした。
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