甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「笑うな」と言う課長の顔は少し笑っていた。
「あの……なんで婚約破棄したんですか?」
「向こうに好きな男ができたから」
「え?」
「まあ、その相手が天野なんだよ。若槻から軽くしか聞いてないけど、付き合ってすぐ振られたようなことを言ってたから、うまくいかなかったんだろうな。
天野の顔を見ただけで気分悪くなったくらいだから、若槻自体もあんまりいい印象はないみたいで。まあ、俺はよく知らん」
「……あっ」

ようやくそこで結びついた。だから、課長は天野先生が嫌いなのか。だから、若槻はあのとき先に帰ったのかと。

「まあ元を辿れば、天野が先に彼女と学生時代付き合ってたんだよ。別れてから俺と付き合いだしたってだけで。何があって再会したかはわからないけど、また好きになるってことは、ずっとどこかで引きずってたのかもしれないな」
「……課長」
「しかしそこまで来ると後悔もないな。ただ考えたよ。亡くなったって聞いてから、もしあのとき別れてなかったら、どんな未来があったのかなって。しょうもないことを」
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