甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

今よりずっと不便だったのだから、へんぴな場所でお店を営むのは苦労があったに違いない。

「最初は色々と大変だったけどもね。でもここに来てからね、すごく感謝することが多くなってね。
沢山色んな人や自然に助けられて生かされてきたね。水や空気も愛そのものなんだって、本当に毎日感謝が湧いてくるよ。
本当にねぇ、人間の心を豊かにするのは感謝だよ。感謝してると色んなことに気づけていって、自分も周りも幸せになるんだから」
苦労したこともあるけど、それさえも懐かしいといった笑顔だった。

胸がポカポカしてくるのを感じていると、おばあちゃんが裏へ行き
「これ食べていいよ」とサービスで漬物と山形名物の玉こんを差し出してくれた。

お礼を言い「嬉しいね」と顕に告げると
「なんで涙目なんだよ」
「なんかおばあちゃん達の歴史を感じたらジーンとしちゃって。あと玉こん大好きだし」
「お前らしいな」
単純と言いたげな目で私を見た。

後からきた割蕎麦の歯ごたえと風味を楽しんでから、お会計の際に
「ここの辺に、何か観光できるところありますか?」

尋ねると、おばあちゃんは「ああ、とっておきの所があるよ。紅葉が綺麗でね。たぶん、今、見頃だよ」と、ここからすぐだという地元の人だけが使うような神社の場所を教えてくれた。

入れ違いに、車が何台も駐車場に停まる。
おばあちゃんの温かさに惹かれるかのように、穏やかな表情をした人たちがお店の中へと入っていった。
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