甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

デスクに戻ると若槻と鉢合わせた。
若槻も中村から加賀くんのことを聞いていたようで、周りに人がいないことを確認すると「聞きました、あの話? 納得できないんですけど」と、自分のことのように腹を立てているので相槌を打った。

「若槻なら、加賀くんの本音を絞り上げれそうだね」
「徹底的にやりますよ。でもまあ、それはさすがにお節介ですしね。ていうか、小千谷さん鼻声ですね。風邪流行ってるみたいだし、良かったらこれ舐めて下さい」
「うん。ありがとう」
差し出された喉飴を受け取った。
「式、もう少しだから、若槻も体調崩せないね。どう? 式の準備で喧嘩とか多いとか言ってたけど」
「まあ。小さいのはちょこちょこですけど、最近は仲良くしてるほうですかね」
「そう、良かった。楽しみにしてるから」
「ありがとうございます。私も楽しみなんです。ふふ」

若槻の彼への気持ちを感じて、少しほっとしていた。



外回りに行こうと準備をしていると中村から連絡があった。

「小千谷さん、すみません。今、会社いますか?」
「いるけど、どうした?」
「今T病院にいるんすけど、実は、持って行かなきゃいけない書類を忘れてしまって。取りに戻ったら間に合わなそうなんす」
時計を確認してから
「わかった。持っていくから待ってて」
「えっ? いいんすか? ありがとうございます」

病院に着いて、中村に書類を渡して別れた。

正面玄関へと向かっていると、見覚えのある人がこちらへ歩いてくる。
天野先生だ。
私の視線に気がついたのか、目があうと大きくあっと口を開け指をさし立ち止まった。

「顕人の彼女」

まさかそんなフレーズが出てくると思わず「はいっ?」と大きく動揺してしまった。
< 217 / 333 >

この作品をシェア

pagetop