甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「それより、課長すごいっすね。さっき聞きましたけど、D病院、新規でとれたって」
「あ、ああ。みたいだね」
「あそこ、U製薬と癒着がすごいから、入り込めないみたいな都市伝説あったのに。さすがっすねー。課長、また昇進するんじゃないすか。いいなぁ、仕事ができて、怖いけどよく見たらイケメンの彼氏なんて、小千谷さん、本当、運がいいですよね」
「運って……ていうか怖いけどよく見たらイケメンって誉めてるのか」

苦笑いで返した。

旅行の帰り、会社を辞めて秋田に帰ることについて、聞けなかった。話がすれ違って、車の中で気まずくなるのが怖かったから。

だって、私が描いていた幸せパズルと顕の持っているパズルのピースが明らかに合わない。

私はきっとこのまま仙台で結婚し、できれば今住んでいる家でまた家族と過ごしたいと思っていたんだ。

でも顕はそうじゃなかった。秋田か。
しかも順調な仕事もあるというのに、それも捨てるって。
どんな生活がしたいんだろう。

今日は顕と会う約束をしたから、ちゃんと話そうと心に決めていた。

だけど、前の彼が思い浮かぶと、胸が塞がれた感覚になる。

意見やしたいことのズレをすり合わせようとすると、自分の価値観を押しつけあって、喧嘩にしかならなかった。結局、自分が我慢して苦しかったし、あれが別れの原因だとも自覚はある。

一緒にいたいのは確かなのにな――。

< 216 / 333 >

この作品をシェア

pagetop