甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

鍋のセッティングを済ませて食事にした。
セリのシャキシャキした歯ごたえを味わっていると「うまそうに食うな」と顕に笑われた。
「だって美味しいし。ビールもすすんじゃうね。あ、そういえばさ、若槻の結婚式に着てくもの、今悩んでるんだよね」
「なんでもいいだろ」
「なんでも良くないから、悩んでるんだよー」

他愛ない話をしながら、昼間の話がふと頭をかすめていく。

本当に、萌花さんの気持ちなんか知りたくなかったな。

顕は言ったんだ。
萌花さんが亡くなったことを知ったときの事をこんな風に。

『ただ考えたよ。亡くなったって聞いてから、もしあのとき別れてなかったら、どんな未来があったのかなって。しょうもないことを』

私は
『本当に、しょうもないですね』
と告げたら、笑って
『小千谷のそういうところ、楽でいいな』
と言われたんだった。

そうだ、顕はきっと、一緒にいると楽だから、私を選んでくれたんだな。
こんなことを気にしてる自分は、顕が好きな自分じゃない。

だってその事実をあのとき受け止められたのは、顕が何も気にしていないというのが伝わってきたからだ。
正直、今は、笑えない。
きっとだけど、その当時の彼は、彼女が亡くなるとわかっても一緒にいたかったんだと思う。結婚だってしたに違いない。

だって、顕が愛情深いって事は、私はよく知っているんだ。

もしも話なんか、しょうもないと思ってたのに、今日は頭から離れていかなくて困る。
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