甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

振り返るとコートを羽織ったままの顕がいて、ドキンとした。
私の隣に腰かけると飲み物を店員に頼む。
「課長、遅いですよ」と若槻は口を尖らせる。
「仕方ねーだろ」
「さっき、小千谷さんがクリスマス何もしてくれないから淋しいって言ってましたよ」と小声で冗談を言うので
「はっ?」と顕に睨まれ
「言ってない、言ってない」と慌てて訂正してから「若槻、酔ってる?」と私は尋ねる。
「まあ、独身最後の飲み会なので、若干、ペース早いかもです」
って、独身最後のって言ってみたかっただけなんですけどねと笑った。

「そっか。明後日か、結婚式」と私が呟く。
籍は結婚式の日にいれると言っていたことを思い出す。
「そうなんですよ。さすがに明日は遊んでられないから、今日位はちょっと飲みたい気分です。あ、そういえば、この前、SNSで見つけたんですけど、課長、華ちゃん、覚えてます?」と顕を見た。
「華? ああ」
「定禅寺通りにお店だしてたみたいで」
「ああ。知ってる。行ったことある、こいつと」と私を横目で見る。
「あ、そうだったんですか? 久しぶりに会いたいなーって思ってたんですけど、今日、どうですか? あ、もちろん小千谷さんも一緒に」
「え、あ、私もいいの?」
「もちろんです。独身最後のお酒に付き合って下さいよ」と愛らしい笑顔を向けた。
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