甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

給湯室でコーヒーを淹れながら、
「当分、彼氏なんかいらないな」
と独り言を呟いていると
「小千谷」
と課長の声がしてぎょっとすると、入口の方から私を見ていた。

「か……課長、いつからそこに」
「今だよ、今」
「今ですか。今なら聞かれてなかったか……」
「あ?」
と睨まれるので
「いや、なんでもないです。何かありましたか?」
「明後日の中村のプレゼンのことだけど」
「ああ。同行しろって言ってましたね」
「そのことなんだけど。あいつ最近、おかしくないか」
「中村? ああ。まあ特に何も問題はないと思いますけど」
「そうか。ならいいけどさ。気が抜けてるような感じがしてな」
「気が抜けてる?」
「なんとなくだけどな」

言われてみれば、
『お疲れ様弟子』
なんて、さっき中村から私を弟子呼ばわりする変なメールが届いたし、デスクに向かってるときに大げさな溜め息を吐いている姿を見かけたこともあった。
私が気づいていないだけで、プレゼンにプレッシャーを感じているのかもしれない。
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