甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

彼を待ちながら、一人考えていた。

片思いとか恋が始まるかもしれない、そんな淡い気持ちはとうに忘れていたけど。
前の恋愛がギスギスしていたのもあって、男の人がどこか信じられなくて、面倒くさい生き物に感じていたのも本当はあって。
当分一人でいいとか、彼氏はいらないって思えば楽だったし、本当の恋を諦めたような諦めたくないような感情で揺れて、でもやっぱり恋はしたいのだと今、はっきり感じた。
本当、こんな自己分析なんかしていないでただ感じるままに生きていきたいものだなぁと改めて実感する。
時の流れをおかしくしているのは、きっとこういう分析やいらないブレーキだ。

綾仁くんは折り畳み式の自転車で通勤していると言った。
それを押しながら、通りを並んで歩く。
定禅寺通りでもタクシーは拾えたのだけれど、少し歩いた広瀬通りで拾うことにしたのはもう少し彼といたいという気持ちから。

「綾仁くん、サークルのことなんだけど」
「ああ、はい」
「やっぱり気が向いたら、私から連絡するね。なんとなく今は朝、自分のペースで走ってるのが楽しいし。あ、でも誘ってくれてありがとう。嬉しかった」
たどたどしく告げると
「はい」
とただ笑顔で頷いてくれた。
「綾仁くんは陸上部だったの?」
「僕テニス部でした」
「あ、そうなんだ。なんか何でもできそうだね。私、残念なくらい運動音痴だし」


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