甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「はは。残念なくらいってどの位ですか? スキップできないとか?」
「スキップはできるけど。テニスだとボールが全然当たらない」
「そんなに?」
「私とラリーするのは不可能だね。返せないから」
と無駄なことに胸をはっていると、通りの隅に三毛猫が蹲っていた。
「あ」と綾仁くんと声がそろった。
「この子、たまに会うんですよ。帰り道」
慣れた様子で三毛猫に近づいていくと、少し警戒したように見えるが逃げる様子は見られず、彼は屈んだ。眺める視線に愛おしさが伝わってくる。
「可愛い。触れられるかな」
「ここの辺までは気を許してくれるんですけど、手を伸ばすとまだ逃げられちゃうんですよね」
「猫好きでしょ?」
「わかります? 猫飼ってます。あ、犬も好きですよ」
そっと手を伸ばすと、すっと三毛猫は立ち路地裏へ消えて行ってしまった。

「あーあー」と肩を落とす様子が可愛くて笑いが零れてしまう。
「あの素っ気なさが可愛いんですけどね」
「確かに。ツンデレがたまらないよね」
「真唯子さんは、何かペット飼ってます?」
立ち上がり、自転車のスタンドを上げる。

「子供のときは飼ってたけど、今は飼ってないな。一人暮らしだし、今猫飼ったらおひとり様まっしぐらになりそうで怖い」
「え、なんで猫飼うとおひとり様まっしぐらなんですか?」
「たぶん一人でもいっかなって開き直っちゃう気がする。三十代だし、いろいろ諦めがついた上であんな可愛いモフモフした子が家にいたら、彼氏なんかいなくても大丈夫ってやせ我慢に火がつきそうで怖い」

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