甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

食事が終わり、三沢先生がタクシーに乗り込んだ。会釈をして見送ると課長が「悪かったな」と言うから顔を上げた。
「変な顔にさせた」
「え……へ……変な顔?」と慌てて頬を両手で挟んでみる。
「嫌な話させたな。さっき、聞こえたから」
ああ、だからか。課長が戻ってくるのが遅かったのは。変なタイミングで割り入らないようにしていたようだ。

「信頼している相手になら普段思ってるもどかしさとか、本当に悩んでいることが出やすいものだよな。俺じゃ聞き出せなかったよ、ああいう話。助かった」
「……いいえ。あの……意外なんですけど、その為に私を呼んだんですか?」
「まさか。先生が、お前が急に来なくなったから、どうしてだっていうから、事務に異動になったんだって伝えたんだよ。その流れで家族を自宅で看ることになってとか、亡くなったとか伝えることになったんだよ。心配して、お前とご飯に行きたいって話になったんだ。それだけだ」
「そう……だったんですか」
「小千谷をブサイクにするつもりはなかったんだが」
真面目な顔で謝罪する。

「……あ、あの……さっきからブサイク、ブサイクって酷くないですか」
訴えるが悪びる様子もなくしれっとした顔で
「じゃあ、もう一軒行くか。付き合わせて悪かったし、助かったよ。少し仕事がしやすくなったのは確かだし。今まで小千谷が心ある付き合いしてくれていたからだな」
素直にものを言うので驚き
「課長が、そんなこと言うんですね」
「はっ?」と睨まれる。
「当たり前だろ。一人で仕事が出来るなんて思っちゃいねーよ」
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