甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

ビールを頼んで口をつけると、ほっと息が吐いた。
確かにさっきの私、少し変だったな。楽しく話せた部分もあるけど、頭で色々考え過ぎてた。

課長の方に視線を向けると、頬杖をついていた課長が横目で私を見ていた。かすかに口角が上がっているので、びっくりする。

「小千谷は飲んだり食べたりしているときは、本当に幸せそうだな」
「え……幸せですよ」
「あと人と話してるときもか」と言ってグラスを手にした。

笑った? 笑った? この人、笑った? どうしてか動揺が止まらない。ああそうか、友達のお店だからか。少しプライベートモードみたいなのがあるのかもしれない。
なんだろ、動悸が激しくなって目をあわせづらい。

少しして綾仁くんに後ろから声をかけられた。
「あれ、真唯子さん?」
「綾仁くん」
「こんばんは」と私と課長に笑顔を向けた。
「彼氏さん?」と尋ねられ「いや、上司」と素早く訂正する。
安心したように「そっか。あ、この前は野球付き合ってくれてありがとうございました」とお礼を述べられ小さく会釈をした。
「い……いいえ、こちらこそ」
課長の前でそれを言われるとなぜか心がひやひやして他人行儀な返事をしてしまう。
それはそうか。この前まで元彼がとか騒いでいたのに、もう別の男? と思われることが嫌なんだと自覚する。
いらないプライドだなとビールを流し込んだ。
< 85 / 333 >

この作品をシェア

pagetop