甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

案の定、彼がフロアの方へ行くと
「随分、好みが変わったな」と突っ込まれた。
「いや、野球見に行っただけですから」
「へえ」
それ以上は別に……いや、あってもいいなくらいには思っているけど、告げないでおこう。

「それにしても、さっき日本酒飲みすぎたな」
「ですね。三沢先生、お酒大好きだし、強いから」
「少し眠くなってきた」
課長は大きな欠伸をする。なんだかここに来てから随分気が緩んでいるような気がしてならない。あの笑顔もそうだけど。
「課長、ここで寝たら私起こせませんからね」
「そういや誰かが寝たときはおぶらされたな。あれはもう二度としたくねーな」
「うっ」と痛いところをつかれたので黙る。

「矢嶋くんが部下の女の子と飲みに行くなんてことあるんだね」
そのやりとりを楽し気に見ていた華さんが言う。
「基本ねーよ」
「そっか。だいぶ前に言ってたじゃない、あの……」
と言いかけたのを課長は「忘れた」と遮った。
話についていけず、きょとんとしていると華さんは話題を変えた。
「じゃあさ、小千谷ちゃん、矢嶋くんのことどう? 独り身淋しい男だからさ、どうにかしてあげてよ」
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