夢恋・second~その瞳に囚われて~
無理もない。
今さら、仕事以外になにを話せばいいのか。

彼の戸惑いも分かる。

どうしても越えられなかった、大きな壁。
非力な私は、それを受け入れるしかない。

「主任」

「ん?」

呼びかけると、彼はチラッと私を見た。だがすぐに、正面を向く。

「私は大丈夫です。……あなたを忘れて、歩いていくことを誓います。……ふふっ。なんだか結婚式みたい」

おどけて微かに笑ってみせる。

「そうか。……すまない」

涙を流して私を好きだと言った、先ほどまでの彼はもういない。
理恵子さんの婚約者として会社を守る、企業のトップとしての風格が、急激に彼を包んだ。

私とのままごとみたいな恋愛など、数ある経験のうちの、ひとつにしかならないのだろう。

「私は負けませんよ。主任よりも素敵な人と、これから恋に落ちるんだから。主任も、自分の幸せだけを考えて下さいね」

強がることに、次第に免疫がついてくるような気がする。笑って話せるまでに、冷静になれている。
だけど、あなたを完全に忘れるまでに、私はこれから何度嘘をつくだろう。
あなたなど、私の中からすぐに消えてしまうのだと。

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