強引社長の不器用な溺愛
囃し立てる声の中で、篠井に問う。


「篠井、親父さんは?」


「弟が迎えに来るそうです。今、堂上さんが近くのホテルを取って、そちらに案内してくれました。……父は、あんなナリですが、喧嘩とかたぶん初めてで……。今、ちょっとパニック状態で」


篠井が涙ぐんだ瞳で見つめてくる。
俺の腫れ始めてる頬に触れた。

みんな見てるけど、いいのか?篠井。
俺は、全然いいけど。
むしろおまえの手、冷たくて気持ちいい。できれば、もう少しぺたっと触ってほしい。


「えーと、もう定時だよな、うん」


俺の言葉に篠井が困惑げに頷く。
大丈夫、打ち所は悪くない。


「これから、もう一度親父さんと話してくるよ。誤解を解いて謝罪したい」


「いいんです。私が行きますから」


篠井が止める理由は、また親父さんが怒り出して喧嘩になるとでも思ってるんだろう。
俺は首を振った。


「きちんと話したい。篠井も一緒に来てくれるか?」


篠井は困ったように視線をさまよわせ、その後にしっかりと頷いた。

よし、ここから一勝負だ。
気合い入れろよ、俺。



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