強引社長の不器用な溺愛
所在なく、駅の方を見て電話が終わるのを待つ私。

しかし、後ろで社長の焦ったような声が聞こえ、振り向いた。


「契約解除?マジで言ってんですか?向こうは」


社長が電話に向かって、怒鳴っている。
相手は敬三さんだろうけど、何かあったことはすぐにわかった。


「ええ、わかりました。敬三さん、今日は出てんの?とにかく、一度そっちに向かいます」


社長が電話を切るなり、私は詰め寄る。


「どうしたんですか?」


「……大沢キノコ農園のサプリメントプロジェクトの案件、向こうが仕事をバラすって言ってるらしい」


バラすってことは、取り止め?なんで、急にそんなことに。
今日は土曜日だ。稼働日でもないのにそんな連絡が来るなんておかしい。

私が疑問を口にする前に社長が憎々し気に言う。


「大沢社長が昨夜入院したそうだ。それで、副社長のばあさんが、自分がすべての業務を代行するって言い出したらしい」


「え!?」


清塚さんと話したのは昨夜だった。でもその時、清塚さんにそんな素振りなかった。
もしかすると、その後の話かもしれない。


「正式契約前だったからな。副社長は、仲良しのクリエイターズフォレストと契約締結の方針だとさ。くそ、こっちはもう動きだしてるっていうのに」


「じゃあ、今回の仕事は……」


すでに方々で動いていることは知っている。ざっと損害を計算して、血の気が引く。
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