天使は唄う

幸せな天使

ガブリエルは退屈そうに眺めていた。
地上の景色
鏡に映る風景
「お前さんも物好きだねぇ」
1歩下がった所で執事のように従っているのはザカリアだ。
「あぁ。」
ガブリエルはわらう。
無機質な笑顔。
張りぼてだというような顔。
彼の表情は口元しか動かない。
「そういえば、ウリエルはどうしてる?」
「堕天使でも狩っているのでは?」
興味なさそうなザカリアにガブリエルは“そうか”と答えて、地上を見た。
「もうそろそろ、此方に来るな。」
そう言った時には大きな羽根を羽ばたかせて去った。
「ガブリエル様にも困ったものだ。いい加減、弟離れして欲しいのだがねぇ。」
ザカリアは首を竦めた。

ウリエルがイリスの元へ報告を終えた頃にガブリエルが舞い降りた。
「ウリエル」
愛おしそうに呼ぶ。
すると、思いがけずその隣から返事が返ってきた。
「兄も居るぞ?」
視線を遣るとそこにはミカエルが居る。
大天使の長男だ。
この世界には4大天使が存在する。
年齢順に並べると、ミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエルだ。
嘗てはルシファーもその1人で、ミカエルの次に年が上だったが、彼は堕天させられている為に役目を剥奪されている。
今は末っ子のウリエルがその役目を担っている。
「居たのか。」
ガブリエルは嫌そうにしている。
そんなことを察していない様子のウリエルは整った顔を歪めることなく2人を交互に見た。
「こうして会うのは久しいな。滅多に大天使がこんなふうに揃うことはない。……後は、ラファエルが居れば良いのだが。」
そう言うものだから、ミカエルもガブリエルもお互いを貶したい気持ちを抑えた。
「ラファエルなら神と対談しているところだろう。だが、ウリエルが呼んでいると聞けばすっ飛んで来るんじゃないか?」
「生粋の弟病だからな。」
「今は女だ。」
「それもそうか。」
ガブリエルとミカエルにウリエルが言う。
ウリエルは嘗て男を器としていた。
今は女性だ。
「我が居ないことを良いことに、好き勝手言いよって」
ゴォッと業火が襲い来るような景色と共に赤い羽根が舞う。
「この、すっとこどっこい共が。」
威圧感を放ち、舞い降りる。
その男からガブリエルは目をそらす。
「噂をすれば。」
ミカエルは“おぉ!”と感嘆の声を上げる。
「4大天使が揃ったな。」
ウリエルは心なしか嬉しそうだ。
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