何でも屋と偽りのお姫様~真実の愛を教えて~
「1人だった俺の前に……
いきなりチェス盤をおいて『一緒にやろうぜ』と馬鹿みたいな笑顔を浮かべながら……
勝手にチェスを始めたんだ……俺の意見なんて聞こうともしないで……」



そう言ったお義兄さんの顔は凄く優しかった。
その人の事を大切に想っているのが痛いくらいに伝わってくる。



「次第に俺たちは親友へとなっていった。
アイツと過ごす時間は本当に楽しくて……ずっと一緒にいたかった……。
でも……俺が柊家の人間だっていう事実は変わらない……。
大学卒業という名の別れが俺たちには待っていた」

「……」

「キミなら分かるだろう?
柊家の人間は……それに相応しい人間としか関わってはいけない」



お義兄さんの言葉の意味は十分に分かっていた。
それは私が身をもって知っていた事だ。
だからこそ家族や友達と縁を切る事になったのだ……。



「……無理やりアイツと引き裂かれ……俺の心はズタズタだった。
俺はそれから柊家の操り人形へとなり……言われるがままに跡を継いだ」



お義兄さんは壊れた様に笑い出し、私の体に縋りついた。
そして何度も何度も私の体を揺らす。



「俺は……どうすればいい?
キミにどうやって謝ればいい……?」

「お義兄さん……」

「キミが拓哉といる事で苦しめば苦しむほど俺の心は軽くなった。
俺だけが辛いんじゃないって思えたから!でも……。
キミが無理して笑う度に胸が痛むんだ……。
もう……訳が分からないよ……」



力なく私の体を揺すりながらお義兄さんは泣き続けた。
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