何でも屋と偽りのお姫様~真実の愛を教えて~
「あの……」

「……ごめん……」



お義兄さんの瞳から流れる涙を見た瞬間、私は口を閉じた。


お義兄さんの涙が何を表しているか私は分かっていた。
だから……何も言わず、ただ黙ったまま彼の背中を撫でる。


彼もまた、拓哉さん同様に苦しんできた。
柊家の長男という事もあり、ある意味では拓哉さんより苦しかったのかもしれない。



「……俺は勝手に……。
自分と梓沙ちゃんは同類だと考えていた。
拓哉の為に、家族や友達を失ったキミを……仲間だと思っていた」



お義兄さんはポツリと呟くとゆっくりと語り始めた。
どれだけ彼が苦しんでいたのかを……。



「柊家の長男として俺は幼い頃から育てられてきた。
将来は柊財閥を継がなければいけない、だから人とは違う人生を歩んできた。
周りの人間は全て敵だと教えられ、自由すらなかった」



お義兄さんは懐かしむ様に顔を緩めた。
その顔は見た事がないくらい優しいものだった。



「でも耐えきれなくなった俺は……
大学の4年間だけ……好きにさせて貰う事にした。
柊家の人間だと知られない様に母さんの苗字を名乗って大学に入学した。
でも、上手く馴染めなかったんだ……。
そんな時……手を差し伸ばしてくれた人がいたんだ……」



震え出す声に私は唇を噛みしめた。
言葉は出さず、ただお義兄さんの話を聞いていた。
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