カフェ・ブレイク
「元夫は実家と私の部屋を行き来してましたが、途中で気づいてしまったんです。姑の言い付けで、たびたび、会話を姑に聞かせてたことに。」

「どういう意味?録音?盗聴器か何か?」

なっちゃんは暗い目になった。
「携帯電話をつなげっぱなしの状態にしてたんです。……わざわざ通話料のかからない姑と同じ電話を買って。」

さすがにゾッとした。

「それは確かに気持ち悪いかも。てか、姑が異常だろ。息子に執着しすぎ。」

なっちゃんは力なく首をかしげた。
「そう?従ってる段階で、息子も異常でしょ。耐えきれず、今度は完全に姿をくらませました。引っ越して、携帯も解約して、離婚届に捺印して送りました。元夫は興信所で私の住所を探しましたが、たまたま海外出張中に姑が興信所からの報告書を受け取り、帰国した夫は相当怒られたそうです。」

……それで、昨日なっちゃんは興信所を疑ったのか。

「4月から東京の学校に勤務が決まりましたが、住民票を取るとまだ離婚届が出されてないことがわかりました。それで夫に離婚届を提出してほしいと電話でお願いしたところ、条件付きで了承されました。」

交換条件か?
女々しい奴め。

「金か?」

「お金は……あちらのほうが豊かですから。」
なっちゃんは、ため息をついてから言った。

「元夫も東京の北区に転勤になったので、一年間、同居しました。」

一年って、過ぎたらあっという間だけど、けっこう長いぞ?

「もちろん寝室は別でしたし、2人で出かけることもありませんでした。……結局、元夫は私自身より、私の料理に未練があったのかもしれませんね。」

そんなわけないだろう。
なっちゃんの料理は確かに旨い。
でも、あわよくばを狙ってなければそんな条件出すわけない。

「で、一年同居して、めでたく離婚できたから帰ってきたのか?」
「いえいえ。離婚届は、同居を始めてすぐに出しました。私の仕事が一年ごとに契約更新だったで、とりあえずの一年でした。……仕事は、何年でも続けられそうな雰囲気ではあったんですけどね。」

なっちゃんは、やっと顔を上げて俺を見た。
「夏休みに玲子さんに、帰って来るよう誘われて、里心がついちゃいました。」

玲子かよ!
そこで、なんで、俺に逢いたかった、って言わないかな。

……まあ、そう言われたら言われたで、もしかしたら、重いとかうざいと感じるかもしれないけれど……
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