カフェ・ブレイク

聖女への未練、ふたたび

ゴールデンウィークの始まる直前、小門と玲子の部屋に遊びに行った。
「で、今度はどこ行くの?グァム?サイパン?」

すき焼きをつつきながら尋ねると、玲子が意味ありげな半笑いを浮かべて小門を見た。
「私はグァムがよかったの~。バケーション慣れしてる欧米人が多いから、ゆっくりできるじゃない?……よりによって、中国って!」

中国?

小門は肩をすくめた。
「中国といっても、リゾート開発されてるから大丈夫だよ。……仕事関係で勧められてね、急遽、グァムからハイナン島に変更せざるを得なかったんだよ。」

ハイナン……海南島か!
「へえ、おもしろそう。……心配しなくても、バケーション慣れした中国人がいっぱいいるんじゃないの?カジノもできたろ?」

玲子がヒクッと片頬だけあげて皮肉気に笑った。
「カジノ、廃止になったそうよ。」

……あらら。

「でもリゾートビーチでゆっくりできるの、すてき。ゆっくり骨休めしてきてくださいね。」
なっちゃんの言葉に、玲子は渋々うなずき、小門は目を細めてほほ笑んだ。

ゴールデンウィーク、か。
もしかすると、あの人が来店してくれるかもしれない。

俺はひそかに楽しみにしていた。
……真澄さんが来てくれることを。

頼之(よりゆき)くんも、もう中学生。
どうしてるのかな。


……リゾート気分の小門と玲子につられたのだろうか。
俺までもちょっと浮かれモードになっていたような気がする。
なっちゃんは、さすがにゴールデンウィーク中は毎日、劇場に足を運ばねばいけないらしい。
純喫茶マチネも、常連さんだけじゃなく新規や懐かしいお客様も来店されるだろう。
「楽しみだな。」
気がついたら、口をついてそんな言葉が飛び出していた。



ゴールデンウィークの谷間、カレンダーでは一応平日の夕方、頼之(よりゆき)くんが制服で来店した。
「こんにちは!ご無沙汰してます。」
黒い学ランに、大きなNIKEのスポーツバッグ。

「やあ、いらっしゃい。……クラブ活動の帰りですか?1人?」
真澄さんは、来ないのかな?
……一番知りたいことは飲み込んだ。

「はい。サッカー部に入部しました。」
サッカー部か!

「じゃあ、私の後輩に当たりますね。」
……小門も、な。

同じ学校、同じ制服、同じクラブ。
何だか不思議な気分だ。

頼之くんは、小門の影を追っているのだろうか。
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