カフェ・ブレイク
コーヒーを入れながら、話しかけた。
「忙しい?サッカー。勉強や連珠がおろそかになってませんか?」
あ、なんか説教くさいかな?
言ってしまってからちょっと反省した。

けど、頼之くんは特に気にする風もなかった。
「連珠はひとまず辞めた。サッカーに集中しようと思って。勉強は中間試験が終わってから考えるけど……たぶんしなくても大丈夫。俺、頭いいから。」

あっけらかんとそう言った頼之くんに、俺は、ちょっとびっくりした。
でも、もう中学生だもんな。
いつまでも天使じゃないか。

俺は頼之くんをオトナの男性として、改めて見た。
よく日焼けした、精悍で凜々しい姿。
真澄さんによく似た整ったきれいな顔も、次第に男っぽく変化してきているじゃないか。

「……頼之くん、もてるでしょ?」
ああ、おっさんみたいなこと言ってしまったよ。

頼之くんは、頭をかいた。
「めんどくさいよ。会話が成立しない女子からコクられても、うるさいだけだし。」
……中学に入って1ヶ月たってないのに、もう告白とかされちゃってるのか。

「そう?頼之くんはどんな子を好きになるんだろうねえ。楽しみだねえ。」
そんなこと言ってても、うるさいだけの普通にかわいい女の子とつきあうことになるのかもしれない。
男と女のことは、当事者でもわからないから、他人の話はなおさらおもしろい。

でも頼之くんはニコリともしなかった。
コーヒーを飲みながら、じーっと俺の顔を見て、おもむろに言った。
「マスターは?何で結婚しないの?それこそ、もてそうやのに。」

店内のお客さまが一斉にこっちを見た。
一瞬、しーんとする店内……たまらないな、この空気。

なるべく当たり障りないように、言葉を選ぶ。
「うーん、ご縁がないんだろうね。」

頼之くんは、納得することもなく、ただ俺の表情を見ていた。
……心の中まで見透かされてそうな、そんな目に、俺はすっかりたじろいだ。
参ったな。


しばらくしてから、なるべくさりげなく聞こえるように聞いてみた。
「真澄さんはお元気ですか?」

頼之くんは、ニコッと笑顔になった。
……かわいい。
何となく、真澄さんに似ていた。

でもその愛らしい唇から紡ぎ出された言葉は、むしろ辛辣だった。
「相変わらず、浮き世離れして生きてますよ。霞喰ってるんじゃないかってぐらい、清らかで優しい心で。」

よ、頼之くん!?
第二次反抗期か?

いや、単に毒舌なのか……嫌悪感はなさそうだ。

あー、びっくりした。
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