カフェ・ブレイク
「そうですか。こちらにも是非お越しくださるように、よろしくお伝えください。頼之くんも、せっかくすぐそこの学校まで降りて来てるんだし、毎日でも寄ってくれればいいのに。」
「……ありがとう。マスター、いつ来てもそんな風に言ってくれてたよね。本当は母もココが好きなんだけど……万が一でも顔合わせたくみたいで。不義理ばかりですみません、って言ってました。」

え?
「伝言?真澄さんから?」
……やばい。
たったそれだけのことで顔がにやけてしまう。
「事情はわかってますので、お気遣いなく。あ、でも、ゴールデンウィーク中は絶対安全なので、是非お立ち寄りください……って、伝えておいてくださいね!念押しして。」

真剣にそう言うと、頼之くんは目を細めるように笑った。
「伝えます。あー、4日にうちのグランドで練習試合があるから、観に来るように言おうかな。したら帰りにココに寄りやすいと思う。……て、マスター、ゴールデンウィークも無休なの?」

「はい、そうですよ。いつでもどうぞ。」
……てか、そのために休めないのだが。

「それにしても、頼之くん、1年生だよね?なのに試合に出るの?すごいですね。抜擢じゃないですか。」
頼之くんは、照れくさそうな顔になった。
「公立中学校のクラブ活動で使われるぐらい、たいしたことじゃないよ。……そのせいで先輩の風当たりも強いし。」

いじめられてるのか?
ものすごく心配になったのが、表情に出てしまったのだろう。

頼之くんは、慌てて小さく手を振った。
「いや、大丈夫だから。マスターも心配性?俺、負けないから。」

何だろう……すごく違和感を覚えた。
まだあどけなさすら残る中学1年生の華奢な男の子なのに、頼之くんは既に男というか……。

あのたおやかな真澄さんと2人で生きてたら、自然と「守られる立場」から「守る立場」へと変わるのだろうか。

頼之くん、かっこいいな。
父親がいなくても、ちゃんと立派に育って……偉いよ、ほんと。

「無理しないように、がんばってくださいね。うるさい先輩も、役に立たなく見える凡庸な部員も、敵じゃなくて、ピッチでは頼之くんの味方ですからね。」
……綺麗事かもしれないが、頼之くんが孤独な戦いを強いられないことを祈る限りだ。
頼之くんは、苦笑しながらうなずいた。

すぐに帰るかと思ったら、頼之くんはカウンターで本を読み始めた。
途中でスポーツバッグのポケットから眼鏡を出してかけた。

へえ……似合うな。
眼鏡男子、ってこういうことなのかな。

理知的なのに、色気が増した気がした。

……別に小門は眼鏡をかけてるわけでもないのに、なんとなく似て見えた。
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