カフェ・ブレイク

28歳のマスターと女子高生

3年後。

頼之くんは、何度も新聞やテレビに取り上げられるようになっていた。
まだ就学前なのに、連珠大会の小学生の部に出ては、毎度入賞していたのだ。

俺は頼之くんの記事を、せっせとスクラップブックにまとめた。
小門は、俺の目を盗んでこっそりとスクラップを開いて眺めていた。


「こんにちは、マスター。指定校推薦決まりました。お祝いして。」
この3年で、少女からすっかり大人の女性へと変貌を遂げたなっちゃんが、うれしそうにやってきた。
少し色素の薄い長い髪をかき揚げるしぐさは、おおっ!と見とれるほど色っぽい。
思った通りの美人さんに育ったなっちゃんだが、相変わらず俺に片想い中らしい。
さぞやモテるだろうに、もったいないことだ。

「おめでとうございます。どちらの学校へ?」
なっちゃんは唇を歪めるように笑って言った。
……それは、なっちゃんが中学2年生まで通っていたお嬢さま学校の大学だった。
治まるところに治まった、ということだろうか。

「それでは、お家から通われるんですね。お母さまも、さぞご安心なさったことでしょう。」
俺の言葉に、なっちゃんはちょっと表情を曇らせた。
「母は……あまり喜んでません。できたら短大に行って、早く結婚してほしいみたい。」

……。

俺は無表情と無言を貫いた。

最近、やたら大瀬戸(おおせと)さん、つまりなっちゃんの母親が、俺にアピールしてくる……なっちゃんをバイトで使ってほしい、とか、そろそろ結婚を考えてないのか、とか。
確かに、28歳ともなると、常連の気のいいおばちゃん達もやたら見合いの世話を焼こうとする。
でも、大瀬戸さんは、なっちゃんを俺に押し付ける気満々なのが……けっこう、きつい。

いや、なっちゃんはイイ子だよ。
3年以上通ってくれてるから、気心もわかってるつもりだ。

……逆に、大瀬戸さんが余計なアピールをしなければ、何かの弾みで、なっちゃんのいじらしさにほだされる可能性は非常に高いはずなのだが……。

「コーヒー、いつものでいい?」

気を取り直してそう尋ねると、なっちゃんはちょっと考えてから注文した。
「wet and warm。」

なっちゃんの瞳が潤んだ。
……優しくしてほしい、温めてほしい……
俺にはそう聞こえた。
< 12 / 282 >

この作品をシェア

pagetop