カフェ・ブレイク
ドタドタと足音が近づいてきた。
「来た来た。」
バン!と大きな音とともに、保健室のドアが開かれて、大きな黒い男性が現れた。

「カウンセラーになってくださるんですか!?」
「え!?……ええ。資格はありますので、お役に立てるなら……」
そう返事すると、彼は満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます!助かります!」

真冬なのに不自然なまでに黒く日焼けした顔に白い歯がまぶしかった。



翌日、教務課から委任状をもらい、私は月水金の放課後にカウンセリングルームに常駐することになった。

何となく、個室を与えられた気分。

カウンセリングルームは、ホームルームのない離れた校舎の端にあった。

案内してくださった体育教諭の吉永先生は、浅黒く日焼けした頬を赤らめていた。
「お風邪ですか?」

昨日、保健室に飛び込んで来た勢いよさが今日はすっかり影を潜めた吉永先生にそう聞いてみた。
すると吉永先生は、しどろもどろになった。
「体は大丈夫です!……いや、疲れてるのか……昨日が疲れていたのか……なんか、大瀬戸先生が昨日とは別人みたいで……」

「ああ、そうでしたか。」
私はちょっと笑ってしまった。

「すみません、昨日は確かに別人でした。顔がむくんでしまって……目なんか今日の4分の1ぐらいの細さでしたでしょ?」

すると吉永先生は、目を見開いた。
「そうやったんですか!なんや~。てっきり、俺、早速、大瀬戸先生に惚れて、あばたもえくぼに見えてるんかと思いましたわ!」

……何か……デリカシーないかも……この人。
返事に困ったので、曖昧に笑ってごまかした。

吉永先生はカウンセリングルームの部屋の鍵を開けてくれた。
「この部屋の鍵は体育科が管理してます。ご不便ですが毎回、体育教官室に寄ってください。」
「毎回、ですか。」
通り道にあるとは言え、めんどくさい。

「はい。……この部屋で問題が起きて以来、鍵の取り扱いにうるさくなったんですわ。」
あ~。
昨日そんなこと言ってたっけ。

「それから、防犯ブザーも設置してます。もし大瀬戸先生に何か不埒なことをする奴がいたら、遠慮なく押してください!体育教官室から駆けつけますんで。」
「……はあ、ありがとうございます。」

給湯設備の説明をして、吉永先生は去って行った。
準備されたデスクの椅子に座って、ため息をついた。

「お疲れ。」
聞き覚えのある声がすぐ近くからした。

驚いて周囲を見た。

……いない。

でもこの声、昨日の……

「竹原くん?」
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