カフェ・ブレイク
「大瀬戸先生のお気には召しませんでしたか?竹原くんは。」
「だって生徒ですよ?まだ中1ですよね?周囲の女生徒と問題を起こさないか、心配です。」

私の言葉のどこが気に入ったのか、和田先生は満足そうにうなずいた。
「大瀬戸先生は長く居てくださりそうね。よろしくお願いしますね。」

……どういう意味かしら。

怪訝そうな顔をしたらしく、和田先生は苦笑しながら説明してくれた。

「中学生ならともかく高校生にもなると、身体は大人でしょ。特に女子は、ある種の男性には大人の女性より魅力的らしいから……イロイロ問題が生じるんよね。教職員との不倫とか。」
「あ~~~。」

「去年、臨床心理士の男性職員が懲戒免職になってんけどね……まあ、彼の場合は未婚やったから不倫じゃなかったんですけど、女生徒の親が淫行で訴えるって学校に怒鳴り込んできてしまって。」
「……イロイロあるんですね。」

「おかげで、カウンセリングルームは一旦閉鎖したけど、常連の子たちが休みがちになったり、保健室に流れて来たり。急遽アルバイトを頼んでも若い子ぉは長続きしいひんし……あら、大瀬戸先生も若いわね、嫌味じゃないから気にしないでね。」

「言うほど若くないですよ、気持ちは。バツイチですし。」
ちょうどいいので、正直に伝えた。

さすがに少し驚かれたけれど、和田先生は納得したように何度もうなずいてらした。
「そう。それでチャラチャラしてないのね。」
……チャラチャラ……してる歳でもないでしょうけど。

「あの、カウンセリングルームって、今も閉鎖してるんですか?……臨床心理士ではありませんが、協会のカウンセラーの資格は持ってますけど、お役に立てますか?」
恐る恐る聞いてみると、和田先生はパッと顔を輝かせた。

「そうなの!ちょっと待ってて!」
和田先生はそう言うと、いきなり電話をかけた。

「わたし。ええ、大丈夫よ、ありがとう。その大瀬戸先生ですけどね、カウンセラーの資格をお持ちですってよ。……ええ。そうなの。吉永先生にも伝えていいわね?あ!ちゃんとその分のお手当はさし上げてよ。」
噂の校長先生に直に伝えたのだろう。

さらに和田先生は、もう1件、電話をかけた。
「もしもし?吉永先生いらっしゃいますか?いつでもけっこうですので保健室までお越しくださるようお伝えください。カウンセラーが見つかりました。……ええ、そうです。」

電話を切った和田先生は、私に胸を張って見せた。
「大瀬戸先生、お給料、上がるわよ。」
「……あ、ありがとうございます。」

よくわからないけれど、好意的に取り計らってくださってるようだ。

右も左もわからない学園で、心強い味方を得た……と、思っておこう。
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