カフェ・ブレイク
「また義人くんの周囲が賑やかになりそうですね。」
苦笑しながらそう言うと、要人さんは桜の花を指で弾いた。

「……まあ、あれだけ手当たり次第遊んで成績が落ちないのは、たいしたもんだが……親としては心配ですよ……ちゃんとヒトとして成長できる人間関係を構築してほしいものだ。」

どの口がそんなこと言うんだろう。
呆れて見てると、要人さんは、思い出したように言った。
「そういや、娘も入学することになりました。兄と違って消極的な子です。気に懸けてやってください。」

義人くんの……妹さん?

「夏子さん。1つ、内緒の話を聞いてもらえますか?」
要人さんは、愛しそうに桜の幹を撫でながらそう言った。

「はい?隠し子でもいらっしゃるの?」
冗談のつもりで言ったのだが、要人さんはグッと言葉に詰まって変な顔をした。

「え?本当に?」
明らかに動揺した要人さんは、四方に目を配り、秘書の原さんが背中を向けてらっしゃることを確認してからため息をついた。
「……まあ、結果的にはそういうことです。が、私は先にロマンティックな初恋の話をしたかったのですが……先にオチを言い当てられてしまった。」

「初恋?」
「そうです。初恋。……この桜の下で泣いていたお嬢さま。いわゆる、身分違いの恋でした。」

そういえば、元はお公家さんの邸宅だったって言ってたっけ。
てことは、元華族のお姫さま?

「どんなに愛し合っていても当然のように引き裂かれ、彼女は元堂上家に嫁ぎました。私も天使のような妻と結婚して、仕事も家庭も順風満帆なはずでした。」

天使?奥様は天使?
……2年前にいただいたイチゴのスープを思い出し、何とも言えない気分になった。

「でも初恋の女性の結婚生活がうまくいってないことを知り……それまで築き上げた全てを捨てても彼女を救いたいと思ってしまいました。」

思わず生唾を飲み込んだ。
小門さんと玲子さんの話を思い出してしまう。

「彼女は私の子供を身籠もり、守るために、婚家を出て離婚しました。一生私が面倒を見るつもりでしたが、結局、他の男との再婚を選びました。」

……結末は違うのね……。

「彼女の産んだ娘も、今年、同じ中学に入学します。」

え!?
ちょっと待って?

「それじゃ、天使の奥様と、初恋のお姫さまとが、立て続けに女の子を産んだの?……要人さん、最低~~~。」

思わずそう詰ると、要人さんは苦笑した。
「本当に最低ですよ。しかも、さらに最低最悪なことに、外の娘は愚息に本気で惚れてる。親としては気が気でないんだが……これも自業自得かな。」

「いやいやいや。要人さんが心配なのは自業自得でいいですけど、お姫さまの娘さん、めちゃめちゃかわいそうじゃないですか。異母兄に本気って!……てか、義人くん、知らないんですよね?今の義人くん、相手が中学生でも……まずいですよ?」

あまり言いたくないし見たくないけど、義人くんが、どれだけ放蕩か、嫌でも耳に入ってくる。
図書館や体育館で女生徒とイチャイチャしてる目撃情報だって枚挙に暇がない。
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